タイクーングラフィックス
ホテルのロゴや館内のサイン、印刷物といったトータルなビジュアルデザインのアートディレクションを手掛けました。
ディレクションにあたり、「堂島ホテルが今まで積み上げてきたものを再構築する」ということを反映できればと思い、まず堂島という場所について情報を集めたり、調べたりしました。商業施設のアートディレクションやロゴデザインは建物の設計と似ているところがあって、まずその土地柄や空間のありかた、また周辺の環境があって、はじめてそこに成り立つものだと考えます。堂島はもともと歴史のある場所でもあるし、行ってみて気づくことやインスピレーションをもらうこともあるだろうと、訪れてまわりの景色を見たりもしました。
堂島は昔、薬師堂という地名の由来となるお堂があった島らしいんです。その後、米市場が開かれ、全国の米相場を決めた商人(あきんど)の街としての歴史がある。そういったことがロゴ制作する上でのヒントになりました。
こういった発想の経緯を、みんなが共通に認識できるようにするため「オーセンティックモダン」というキーワードを設定しています。本質を追求することで見いだされる現代性、歴史を感じない表層的なデザインではなく、時代を経て磨かれ選び出された現代性という意味です。
ロゴ制作のコンセプトでもあり、ホテル全体の考え方に通じるプロジェクトの「合い言葉」のようなものですね。
このコンセプトのディテイルは3つあります。
1つは「機能と感情」。例えば館内で使われるサイン。ふつうは機能だけでいいはずだけど、そこにエモーショナルな新しさをいれる。例でいうと、客室のドアにつける「Don’t disturb」というサインのデザインは、手のひらが大きく表示された「ストップ」のジェスチャーをしている。逆に「クリーニングしてください」は、「どうぞ入ってください」という風に、手のひらを下に向けている。ちょっとしたユーモアが入った感じ。
機能と気持ち、実際は相反することなんだけど両立させる。記憶に残る、愛される表現です。
2つめは「未来へと繋がる歴史」。堂島ホテルは歴史もあるけど、焼き直しじゃなくて新しい考え方や試みをこの場所でやっていこうよ、ということ。
3つめは「五感に響くシンプルさ」。無身無臭なシンプルさではなく感情的な、琴線に触れる表現もあるはず。それも新しい考え方かと思いました。
これらの考えをふまえて、ロゴやサインを制作しました。
ロゴは、大阪の商人の街ならではの、交易の場の象徴として「小判」の形の中に納めました。どこか顔みたいなユーモラスなシンボルマークですが、これも機能と感情の両立です。
イメージのバラつきがないように、サインや印刷物に使用する文字のオリジナルフォントの作成と、基本色のガイドも決定しました。色については、素材本来の色を基本にしようということで、リネンの「白」だったり、大切に使われてきた銀器の「シルバー」や、鋳鉄のハンドルの「黒」、アンティークの革の使い込んだ感じの「茶色」の4つの色を規定しました。堂島ホテルの積み上げてきた歴史を見直しましょう、という理由からです。
ホテルで働いている人が、「何でこの色が使われたの?」とゲストから質問があった時にも答えることができ、「意思が浸透している」ということが大事だと思うんです。みんな共通認識のもとで働いている。
ホテルに宿泊している人も、何気ないことに気づくと思うんですね。部屋に置いてある物もちゃんとした意図や意味があって、場所やアイテムを選んでおいてあること。それを感じとる行為自体が贅沢だし、それだけリラックスしているということですよね。切羽詰まっていたら、どうでもいいことですから。「気持ちが通っている」ということが大事だと思うんです。
ひとつひとつにこだわる、意識を凝縮すると、デザインにおいてもサービスについても奥行きがでる。こちらもゲストが気づいてくれるとうれしいし、ゲストも泊まる度に発見を楽しんで、また来てくれる。それって、お互いにとってもうれしいことですよね。大きなホテルではできにくいこだわりも、『堂島ホテル』ではできる。大切なことだと思います。


1991年、宮師雄一、鈴木直之の2人によりタイクーングラフィックスを設立。
音楽・ファッション・コスメティッを中心に、広告、CI、パッケージデザイン、エディトリアルのアートディレクション及びグラフィックデザインを行っている。
また最近ではブランディングや建築関係のグラフィック、映像ディレクションなど多岐にわたる活動をしている。






























